水戸ホーリーホック戦、プレーエリアによる分析

2008.08.22
 いきなりだが、今回は試合の分析に「プレーエリア」と言う概念を取り入れてみようかと。
 8月17日の水戸ホーリーホック戦で、セレッソは4試合ぶりの勝利を挙げたわけだが、セレッソサポーターで、試合内容に満足した人間は恐らくいないだろう。前半は早々に2得点を奪うなど素晴らしい内容だったが、後半になり、1点差に詰め寄られると、非常に危機感を感じるサッカー内容になってしまった。
 スタッツを見ると、セレッソのシュート数28に対して、水戸のシュート数は9。明らかに圧倒した試合だったが、にもかかわらず後半のセレッソのサッカーから「危険」を感じた理由は何だったのか。そのあたりを、各選手のプレーエリアを参考に、探っていくことにしたい。

両チームのフォーメーション

両チームのフォーメーション  まずはこの試合における、両チームのフォーメーションを確認しておこう。
 セレッソはGK相澤貴志、DFラインは左から平島崇、江添建次郎、藤本康太、柳沢将之、ドイスボランチがアレー、ジェルマーノ、左OH香川真司、右OH乾貴士、2トップが小松塁とカイオ。左SBのレギュラーだった尾亦はアキレス腱の断裂で6ヶ月の離脱。代って入った平島は京都サンガFCからレンタルで獲得した選手で、今シーズン2試合目の出場にして初先発である。
 また、CBではキャプテンの前田が累積警告により出場停止。代って藤本が右のCBとして出場した。
 対する水戸ホーリホックは、GK本間幸司、DFラインは左から中村英之、大和田真史 、平松大志、倉本崇史、MFが左から赤星貴文、村松潤、パクチュホ、金澤大将、2トップが荒田智之と小林悠。

プレーエリアでの分析、前半、攻撃編

 まず始めに、今回試合の分析に利用する「プレーエリア」についてだが、これは試合中の各選手のボールタッチの位置を記録したものである。前半開始から25分、後半開始から25分を、それぞれ記録した。本来であれば試合開始から終了まで、90分間を記録すべきなのだが、それをしていると次の試合までにこの記事をアップできない為、上記の範囲とした。この記録を元に、試合の分析を行っていくことにしたい。
 さて、この試合でのセレッソは、前半は非常に素晴らしいサッカーを展開していた。13分に相手ゴール前での混戦から乾がゴールに蹴りこんで先制すると、更に17分には同じく乾が相手ペナルティエリア左でボールを奪取してそのまま切り込み、乾のシュートがこぼれたところを小松が押し込んで、前半の早い時間帯で2点のリードを奪うことに成功した。
前半のセレッソのプレーエリア
 左の図は前半開始から25分までの、セレッソのプレーエリアである。セレッソの攻撃方向は上方向である。ピッチを広く使い、ボールを支配して攻め込んでいたことが見て取れる。
 また、これまでの試合では余り見られなかった、相手ペナルティエリアの脇のスペースでのボールタッチが多いことも特徴である。セレッソのOHは概して中央に絞ってプレーすることが多く、したがってサイドの深いエリアはたまにSBが上がって使うのみだったのだが、この試合ではこのエリアにOHが積極的に出て行って、サイドから相手を崩していこうとする意識が強かった。
 画像の下のボタンをクリックすることで、香川、乾の両OHのプレーエリアを見ることが出来る。
 こうしたサイドから崩していく攻撃は、サイドにタメが出来ることで、中央の選手の飛込みを引き出す効果がある。サイドの深い位置をえぐられると相手のDFラインは下がって対応するしかないので、下がって空いたバイタルエリアのスペースに、中央の選手を呼び込めるからである。前半のセレッソはサイドからのボールに2トップと逆サイドのOHが詰め、2列目からボランチが上がってくると言う形で、攻撃に厚みが出ていた。4-2-3-1の時はゴール前に小松とせいぜいOH1枚だったが、こうした攻撃の枚数不足はこの試合では改善されていた。

プレーエリアでの分析、前半、守備編

前半の水戸のプレーエリア  一方、セレッソの前半の守備はどうだったのか。攻撃時とは逆に、相手である水戸ホーリーホックのプレーエリアを見ていくことで、セレッソの守備面を見ていくことにしよう。
 左の図が前半の水戸のプレーエリア。水戸の攻撃方向は下である。この図を見ると、前半のセレッソは自陣ペナルティエリアの前、いわゆるバイタルエリアのスペースでは、相手に殆どプレーさせていないことが分かる。
 先に上げたセレッソのプレーエリアと併せて見ると、前半はセレッソが圧倒的にボールを支配し、かつ相手に危険なシーンを殆ど作らせなかったことが分かる。

プレーエリアでの分析、後半、攻撃編

後半のセレッソのプレーエリア
 続いて、後半のセレッソの攻撃について見ていこう。左の図におけるセレッソの攻撃方向は上である。
 前半と較べて自陣でのボールタッチが減り、また前半のような、相手ペナルティエリア脇のスペースでのボールタッチも減っている。ただし、シュート自体は14本放っており、必ずしも攻撃が停滞していたわけではない。
 これはデータではなく実際の試合を観た上での印象だが、後半のセレッソは「ボールを支配する」、「主導権を握る」と言うよりは「3点目を奪って試合を決める」ことに傾注していた印象がある。そうした後半における意識の変化が、「早めに相手陣内に持ち込む」、「サイドに開くよりも中央からシュートを打つ」と言う傾向に表れたのではないかと想像する。
 前半は比較的下がり目の位置でボールを裁くことが多かった香川も、後半は積極的に上がって攻撃の最終局面に顔を出すことが多くなり、後半のセレッソは、両OHが非常に高い位置でプレーするようになった。
 画像の下のボタンをクリックすると、両OHのボールタッチを見ることが出来るが、特に香川のプレーエリアが、前半と較べて非常に高い位置に分布していることが分かる。

プレーエリアでの分析、後半、守備編

後半の水戸のプレーエリア  さらに、後半のセレッソの守備面について見てみる。
 前半と較べて、水戸のボールタッチは大きく増減はしていない。しかし、明るく表したエリアを見れば分かるとおり、セレッソ陣内バイタルエリアでのボールタッチが増えている。
 シュート数自体は前半が4本、後半が5本と、大きく変化はしていないので、この「バイタルエリアで相手にボールを持たれることが多くなった」ことが、後半のセレッソのサッカーから危険を感じた理由であると結論付けることが出来る。
 もちろん、1点差に詰め寄られたことによる心理的なプレッシャーが、感じる危険を更に増幅させたことは言うまでもない。

なぜ、バイタルエリアに入られやすくなったのか

 では、セレッソがバイタルエリアを攻略された理由はなんだったのか、その点について考えてみよう。
 先に書いておくと、この点について明確、かつ疑いのない結論を導き出すことは難しい。シュートを打たれたり、失点したりと言ったことについてであれば、事象がはっきりしている分、ある程度原因を明確に出来るが、「バイタルエリアに入られた」と言う曖昧な状況の原因を特定するには、時間が足りない。相手の戦術や選手のプレースタイルといった点についての情報も不足している。
 したがって、ここではデータ、そして試合を実際に見た感想から、予想できる範囲内で、バイタルエリアを攻略された原因について考えてみることにしたい。

後半のセレッソの守備傾向

 チーム内での競争力、相手へのプレスを増やしていこうという話をしました。前半のうちはそれが見られたと思うのですが、うちのFWの選手がよく相手のDFを追って、プレッシャーをかけたと思います。ただ、後半に入ってボールを取れる回数が減ったと思います。そしてゲームの流れが悪くなり、ちょっと危ない試合になったかと思います。
 上記は、試合終了後のレヴィー・クルピ監督のコメントである。文章はセレッソ大阪の公式サイトからの引用だが、「J's GOAL」では、「後半に入ってボールを取れる回数が減ったと思います。」のくだりが、「後半に入って前線でボールを取れる回数が減ってしまった。」となっている。
 ボール奪取数自体が減ったことが問題だと考えているのか、それとも前線(つまり相手ゴールに近い位置)で奪えないようになったことが問題だと考えているのか、この点は重要なのではっきりさせて欲しいところだが、ともかく後半のセレッソのボール奪取が少なくなったことが問題だと監督はコメントしている。この点について、データをチェックしてみよう。
セレッソのボール奪取地点
 左は、セレッソの前後半のボール奪取地点の分布である。
 このデータも、「プレーエリア」のデータから算出されている為、前半25分、後半25分のデータである点を留意してほしい。
 図中の丸の中の数字はボールを奪った選手の背番号である。画像をクリックすることで拡大画像が表示され、ボタンをクリックすることで前半と後半が切り替わる。
 まず、「ボールを奪取した」と言う基準についてだが、ここでは「相手のボールタッチの後にセレッソのボールタッチがあった」ものを、セレッソのボール奪取としてカウントしている。この基準の場合、例えば相手のシュートがセレッソの選手の足に当たった場合もカウントされるが、他に適当な基準もないため、一律化することを優先した。
 この図を見ると、確かに後半のセレッソのボール奪取数は減っている。前半が合計43回であったのに対し、後半は33回である。また、奪回地点も微妙に後退しており、特に中盤でのボール奪取が減っている。
 したがって、レヴィー監督の言うとおり、ボール奪取数が減ったことが、バイタルエリアへの浸入を許した原因の一つである可能性は高い。
 ただし、ボールの奪回地点が下がったことに関しては、大きな問題ではないと思う。この時期に前半よりも後半のほうが運動量が上がると言うことは有り得ないし、2点リードしている状況で、前線から激しくプレッシャーをかけ続ける必要性もないからである。

セレッソの守備傾向、OHのポジショニング

 さて、ここから先は一つの仮説になる。
 セレッソのボール奪取数が減ったことがバイタルエリアへの浸入を許した一つの原因であることは恐らく間違いない。では、何故減ったのか。運動量が落ちて前線で奪う割合が減ったとしても、引いて守っていたなら、奪回地点が下がるだけで、ボール奪取の総数自体はそれほど変わらないはずである。ここからは、試合の画像を交えて考えてみることにしよう。
セレッソのOHのポジショニング  左の写真は、今回の水戸戦、そして前節の湘南戦における、セレッソの守備時の画像である。3枚の画像において、セレッソのゴールは全て右方向にある。写真が小さくて少し見づらいが、白丸で囲んだ選手がボールホルダー、つまり3枚の写真ではいずれも相手がボールを持っている。
 1枚目の写真が水戸戦の54分のシーン、2枚目が同じく61分のシーン、3枚目が湘南戦の15分のシーンで、1枚目と3枚目は、失点直前のシーンである。1枚目のシーンではボールホルダーが逆サイドに展開したボールを平島がクリアしようとしたが、これが不十分で水戸のOH赤星に拾われ、そのままシュートを決められた。3枚目のシーンではボールホルダーから逆サイドの加藤にサイドチェンジされ、加藤のクロスから失点した。
 いずれのシーンにおいても、セレッソのほうはボールと逆サイドにいるOHが、高いポジションを取っている。通常、サッカーでは相手がサイドでボールを持っている状況では、該当サイドのプレーヤーが上がって当たりに行き、逆サイドのプレーヤーは下がってスペースを埋めるのがセオリーである。片方が上がって片方が下がるので、「つるべの動き」と俗称される。このセオリーに従うなら、各シーンでのOHは、いずれもバツ印の位置にポジションを取るべきである。それをしていなかったことで、3つのシーンいずれにおいても、セレッソはバツ印の付近にスペースを残している。
 前回のエントリーでは、左SBである尾亦がボールと逆サイドにいる時に絞っていない点を指摘したが、セレッソはOHも、ボールと逆サイドにいる時の守備が疎かである。
 この試合では、既にプレーエリアで見てきたように、香川が後半から高い位置を取るようになったため、守備時に彼のホームポジションである左サイドのスペースが空くことが多かった。この試合の失点シーンにしても、平島のクリアが短かったことは事実だが、香川が下がっていればクリアボールを拾えていたか、もしくは赤星に拾われてもプレッシャーに行けたはずだった。
 「仮説」と言うのは、このOHが空けたスペースから、バイタルエリアに展開されることが多かったのではないか、と言うことである。こうしたスペースは、ボールサイドで相手にしっかりプレッシャーがかかっている間は、相手がルックアップできないために、露になりにくい。従って、運動量が落ちた後半から中央への侵入を許すことになった事実とも符合する。また、水戸のほうが意識してOHの裏のスペースを狙ってきた可能性もある。
 これを実証する為には、実際に試合の映像を見て、OHが空けたスペースから中央を攻略された回数を数える必要があるし、後半は水戸が村松に代えて朴宗真(パク・ジョンジン)を投入してきたので、そのプレー内容に関する検証も必要である。今回はそこまではできなかったため、仮説に留めた。試合の録画を手元に持っている人は、是非確認してみて欲しい。

セレッソの基本ポジション

 最後に、セレッソの各選手の基本ポジションを見てみよう。これは、
 [各選手のボールタッチのX座標の合計÷ボールタッチ回数]、
 [同じくY座標の合計÷ボールタッチ回数]
 で算出した、各選手の平均的なポジションである。ちなみに、これまでは前後半別々に集計していたが、この基本ポジションは、前半25分、後半25分を合計して算出している。
 クリックすると拡大画像が表示される。
セレッソの基本ポジション  この試合のセレッソの基本布陣は、小松とカイオを2トップに置く4-4-2だが、この図を見れば、かなり4-2-3-1に近い布陣だという事が分かる。
 通常の4-2-3-1では、両ウィングに飛び出しに優れた、クイックネスのあるプレーヤーを入れ、中央にボールを裁くパサータイプの選手を入れて、1トップと両ウィングにボールを供給していくパターンが多い。濱田をトップ下に、古橋をウィングに入れていた時はこの形だった。
 しかし、今回は逆に、両ウィングに香川と乾と言うタメを作れる選手を入れ、小松の背後からカイオが飛び出していくパターンが多かった。レヴィー監督も試行錯誤しているのだろう。
 カイオはブラジル人だが、この試合を見る限り、テクニックよりは裏に飛び出すスピード、ゴールへの執着心を買われているように見える。無論、セットプレー時のプレースキッカーとしても、彼にかかる期待は大きい。

総評

 さて、今回の「プレーエリアによる分析」は如何だっただろうか。
 今回に関しては実験的な試みであり、時間が限られていたこと、水戸の選手のプレーに対する分析が余り出来なかったこともあって、完全な分析とはならなかった。
 ボールタッチの分布は、一旦入力してしまえば、今回取り上げたような分析以外にも、例えば各選手のパス交換の回数や、パスの成功率、ボールを受ける時の角度、出す時の角度など、様々な面から分析が可能で、非常に広がりがあるのだが、いかんせん入力するのに非常に労力と時間を要するのが難点である。これからも、時間がある時にはこうしたデータを出しつつ分析を行うことにしたい。