サガン鳥栖戦、3バックで這い上がれ
2008.10.22
2008年J2第40節、サガン鳥栖対セレッソ大阪。レヴィー・クルピ監督が選択したのは、フォーメーションの変更、それも、シーズンを通して戦ってきた4バックを3バックに変更すると言う、大きな改革の断行だった。
正直なところ、試合が始まるまで、そして始まってからも、この3バックが機能し、勝利できるとは到底思えなかった。何しろJ2に降格して移行、セレッソはずっと4バックで戦ってきており、3バックでリーグ戦を戦ったのは、ここ2シーズンで2試合、都並前監督が解任され、監督不在で臨んだ2007年の第16節、愛媛FC戦と、その次の試合、レヴィー監督が就任した直後のコンサドーレ札幌戦だけである。しかし、試合が終わってみれば、セレッソは昇格を争う鳥栖を相手に、4-1の快勝。これだからサッカーは分からない。
今回は、レヴィー監督が3バックを選択した理由を推論するとともに、その効果についても、検証していくことにしたい。
このサイトで試合の分析を行ったのは、8月17日の水戸ホーリーホック戦が最後である。それ以降、この日のサガン鳥栖戦までの試合結果は、左表の通り。失点が非常に多く、無失点に抑えた試合は35節、FC岐阜戦のみ。それ以外の試合では全て、2失点以上を喫している。逆に、攻撃面ではいずれの試合においても複数得点を挙げており、従って3バックへの移行の理由が、守備面の改善であることは間違いない。
では、各試合における失点の内容はどのようなものだったのか。失点までの流れから、セレッソの失点パターンを簡単に分類してみよう。
(※右サイド、左サイドの表記は、すべてセレッソから見たもの。)
失点パターンとして似通っているものを、色分けして表記した。色が付いていないものは、相手の個人能力による失点である。
J1昇格を目指すチームであるにもかかわらず、ミスからの失点が多いのが切ないが、それ以外に注目すべき点として、クロスからの失点(青色のパターン)が4つ含まれている点が挙げられる。
左の画像は、徳島戦、山形戦、福岡戦で、クロスから失点した際の、クロスが上がった瞬間のシーンである。1〜4枚目、いずれのシーンでも、セレッソはペナルティスポット付近、最も失点の危険が高いエリアで、相手選手に対して数的均衡、ないしは数的不利に陥っている。また、それぞれのクロスは全てセレッソから見て左サイドから上がっているが、こうしたシーンでは右SBが絞って中央の守備にあたるのが、4バックで守るチームのセオリーである。セレッソの右SBのレギュラーである柳沢は、上下動の運動量とクロスの精度に秀でた選手だが、身長が低く、空中戦の競り合いには向いていない。好調時であれば、競り勝てないまでも身体を寄せて相手のプレーを阻害することが出来ていたのだが、ここ最近は、消耗してくる試合終盤になると、身体を寄せきれなくなるシーンが散見されていた。今回の3バックへの移行には、こうしたクロスに対して3人のCBを置くことで、ゴール前での数的、身体的優位性を確保する狙いがあると想像される。
また、そもそも論として、セレッソの選手選考は攻撃を主眼において行われており、自分たちが主導権を握れない試合を、守備の頑張りで乗り切るようには構成されていない。従って、3バック化してMFの人数を増やし、中盤でイニシアティブを握ることで守備の時間帯そのものを減らす、といった狙いもあるだろう。この点については、試合の流れを追いながら、詳しく触れていくことにしたい。
この試合、3バックで臨んだセレッソのスターティングメンバーは、左の通り。
GK山本浩正、3人のCBは左から藤本康太、羽田憲司、前田和哉、ボランチにジェルマーノ、濱田武、左WB(ウィングバック)ジウトン、右WB酒本憲幸、2シャドーに香川真司と乾貴士、1トップがカイオ。
一方のサガン鳥栖は、オーソドックスな4-4-2。GK室拓哉、DFラインが左から谷田悠介、柴小屋雄一、内間安路、長谷川豊喜、MFが左から野崎陽介、船谷圭祐、島嵜佑、高橋義希、2トップが廣瀬浩二と藤田祥史。
セレッソのメンバーのうち、濱田と酒本は久々のスタメンである。濱田のボランチ起用に関しては、中盤でのイニシアティブを獲りたいというレヴィー監督の意図の表れだろう。濱田は当たりの強さや得点能力ではアレーやジェルマーノに及ばないものの、パスが正確で玉離れも良く、攻撃の際の状況判断に優れた選手。パス回しの中心となってリズムを作っていく役割には適任である。
一方の酒本。天皇杯では右WBに平島を起用していたが、昇格するために勝利が絶対条件となるリーグ戦では、本来SBである平島ではなく、よりオフェンシブな酒本を起用するのが理に適っている。平島についてはベンチ入りはしており、守備的に戦う局面では、酒本かジウトンに代えて起用する腹積もりだったと考えられる。
左の写真は前半7分の鳥栖の攻撃シーンである。
1.FWの藤田がセレッソの右CB、前田を引き連れて中盤まで下がり、背後からのボールをポストで落とす。
2.落としを受けた選手が前田の空けたスペースに縦パス。
3.反転した藤田が3バックの脇のスペースでパスを受ける。
要するに、藤田が引いて前田を釣り、前田の空けたスペースにパスを送る、と言うのが鳥栖の攻撃の一つのパターンだった。鳥栖は前半21分にもこれとほぼ同じような攻撃を見せており、恐らく試合前から意図していた形だろう。
ただしセレッソのほうも、こうした鳥栖の攻撃には対応できており、7分のシーンでは相手のパス出しが遅れた間に前田がしっかりと戻れていたし、21分のシーンでは前田が空けたスペースを羽田がカバーできていた。また、CBの3人が右サイドにスライドすることで空いた左サイドのスペースは、ジウトンが戻って埋めていた。
無論、前半早々、こうした定型化されたパターン攻撃で3バックが破綻しているようでは話にならないわけだが、少なくともセレッソの3バックが付け焼刃ではないことが、これらのシーンから見て取れた。
こうした戦い方が可能になったのは、3バックのプレーヤーのスタイルによるところが大きい。これまでのセレッソは、センターバックに江添、前田を置くことが多かったが、今回は前田、羽田、藤本の3人である。羽田と藤本は中盤もこなせるプレーヤーであり、足元の技術は江添や前田と較べて正確である。また、ロングボールの精度も高い。DFラインから相手陣内の深い位置、しかもサイドにボールを蹴って味方にキープさせる為には、ボールの強弱や角度に正確性が要求されるが、藤本と羽田はこの点において、非常に優れていた。
更に、懸案だったサイドからのクロスボールに対しても、3バックにした効果は表れていた。
左の写真は前半43分、セレッソから見て左サイドからクロスが上がったシーンである。ゴール前で相手2トップに対し、3バックが数的優位を確保できていることが分かる。また、4バックの時であれば柳沢が入っている位置に、ここではセレッソの中で最もヘディングの強い前田が入っている。相手のクロスへの対策は、この試合においてはひとまず成功していたと言っていいだろう。
そして前半44分。セレッソは香川のゴールで、待望の先制点を奪取。
この得点については、多くを述べる必要もないだろう。左サイドを持ち上がった乾からパスを受け、ペナルティエリア中央、相手が最も守備を固めるエリアを破ってのゴール。
「エースの貫禄」を香川が見せ付け、セレッソは1-0で前半を折り返した。
先制点を奪われたことで、当然鳥栖は攻撃の志向を強め、後半からはOH山城純也を投入して攻勢に出てきた。
これまでのセレッソは、相手が攻勢に出てきた時間帯で、それを押し返すことが出来ずに失点を喫することが多かったわけだが、この試合においては、前線、中盤からのプレスに人数をかける鳥栖の攻勢に対して、WBがボールと逆サイドに余ることで、相手のプレスをいなすことが出来ていた。具体例を見ていこう。
左の写真は後半17分のシーンである。セレッソから見て左サイドでボールを持ったジェルマーノが、CB前田にパス。ボールを受けた前田は一気に逆サイドの酒本へ。
1枚目の写真ではジェルマーノの付近に5人もの鳥栖の選手が居るのに対して、3枚目の写真での酒本は、非常に広いスペースでボールを受けることができている。
4バックであれば、こうしたシーンではボールホルダーがルックアップした瞬間に、絞っていた右SBがワイドに開いてボールを受けるわけだが、こうした「絞る」、「開く」の攻守の切り替えは体力的に負担がかかる上、絞っていた時にマークしていた相手が、今度は逆についてきて、プレーを阻害されることも多い。
その点、3バックにおけるWBは中央に3人のCBが居る分、マーキングの負担が少なく、したがって、ワイドな位置に出て行く際の負担がSBに較べて少ない。よって、ボールを奪って逆サイドに展開する上で、相手のプレスを迂回してフリーになりやすい。つまり、たとえ押し込まれても、開いたWBに展開して高い位置に持ち出すことで、再度押し返すことが可能になるのである。
写真のシーンを鳥栖の観点から見た場合、1枚目の状態では押し込んでいたにもかかわらず、サイドを変えられた途端、一気に自陣まで押し戻されたと言うことになる。
とは言え、この試合では香川と乾がJ2では殆ど反則と言っていいレベルの攻撃力を見せており、特に1点目と2点目は、殆ど2人の個人能力だけで相手の守備を崩してしまった。したがって、本当に3バックにしたから快勝したのか、単に香川と乾のタレントが素晴らしかったから勝てたのか、この判断は微妙なところである。勿論、現在のセレッソが置かれている状況を考えれば、勝ってくれれば理由は何だっていいのだが、いずれにせよ、次の仙台戦で3バックの真価が問われるのは疑いのないところである。仙台の菅井、関口と言った選手たちはクロスの精度も高く、彼らが3バックのサイドのスペースに侵入した場合、セレッソとしては致命傷になりかねない。跳ね返せるかどうか。
一言で言うと日本の芝にまだフィットしておらず、ボールが足についていない。現状では、ボールを大きく持ち出す時にミスをすることが多い。
また、レフティであるにも関わらず、左サイドから中央に入っていきたがる習性も不可解である。単純に縦に抜けて、中央に左足で折り返していればチャンスになっていたであろうシーンが、この試合でも何度かあった。
更に、不用意な横パスが多い。恐らくこの試合では、サイドでドリブルして相手DFを広げ、その上で香川、乾に預けて割っていこうと言う意図だったのだろうが、肝心の中に入れるパスが無用心で、カットされてカウンターを食らわなかったのが不思議なくらいである。中盤で横パスをさらわれ、出し手と受け手の両方が置いていかれたら目も当てられない。次からはWBからトップ下と言う攻め筋も読まれやすくなるはずで、ここを狙われる可能性が高い。
左利き、高身長、やわらかいボールタッチ、これらを兼ね備えたジウトンが得がたい好素材であることに疑いはないが、現在のセレッソには彼の成長を待つ余裕がない。仙台戦までにジウトンのプレーが改善されないようであれば、彼は外すべきだろう。
また、小松をベンチにすら入れなかった点も疑問である。必ず勝たなければならない試合で、チームで最も得点を取っている人間をメンバーから外す理由は、怪我以外では説明が付かない。この日は香川、乾が得点を奪ったが、彼らは基本的にチャンスメーカーである。ついこの間まで、小松しか得点を挙げていない時期があったことを、忘れてはいけない。百歩譲ってスタメンはカイオでいいとしても、小松はベンチには入れておいて欲しい。
西澤、大久保が居た、3バックだった頃のセレッソを思い出したり、そう言えばあのシーズン、磐田にWBの裏を衝かれてやられたっけ、とか、鳥栖のボランチの船谷はその時、点取ってたヤツか、とか、そう言えば磐田は16位だから入れ替え戦で当たるかも、とか。
勿論、そうした思いを巡らせることが出来たのは、セレッソが勝利し、昇格の可能性を残したからである。
ゆっくり眠れる日が続きますように。
正直なところ、試合が始まるまで、そして始まってからも、この3バックが機能し、勝利できるとは到底思えなかった。何しろJ2に降格して移行、セレッソはずっと4バックで戦ってきており、3バックでリーグ戦を戦ったのは、ここ2シーズンで2試合、都並前監督が解任され、監督不在で臨んだ2007年の第16節、愛媛FC戦と、その次の試合、レヴィー監督が就任した直後のコンサドーレ札幌戦だけである。しかし、試合が終わってみれば、セレッソは昇格を争う鳥栖を相手に、4-1の快勝。これだからサッカーは分からない。
今回は、レヴィー監督が3バックを選択した理由を推論するとともに、その効果についても、検証していくことにしたい。
失点パターンの分類
さて、試合内容に移る前にまず、ここ最近のセレッソの試合について振り返っておこう。| 節 | Home | 結果 | Away |
|---|---|---|---|
| 32 | ロアッソ熊本 | 2-2 | セレッソ大阪 |
| 33 | セレッソ大阪 | 3-2 | 徳島ヴォルティス |
| 34 | 試合なし | ||
| 35 | FC岐阜 | 0-6 | セレッソ大阪 |
| 36 | セレッソ大阪 | 2-2 | モンテディオ山形 |
| 37 | アビスパ福岡 | 3-2 | セレッソ大阪 |
| 38 | セレッソ大阪 | 2-3 | サンフレッチェ広島 |
| 39 | 横浜FC | 2-2 | セレッソ大阪 |
では、各試合における失点の内容はどのようなものだったのか。失点までの流れから、セレッソの失点パターンを簡単に分類してみよう。
| 試合 | 時間 | 流れ | 原因 |
|---|---|---|---|
| 熊本戦 | 14:41 | 香川が自陣ゴール前で持ち上がろうとしたところを木島が奪い返し、そのまま木島が持ち込んでシュート。 | 香川のミス。 |
| 64:00 | PA右からのFKから、高橋泰がヘディングシュート。 | セットプレーからの失点。 | |
| 徳島戦 | 75:00 | セレッソ陣内左サイド深い位置のスローインからクロスを上げられ、逆サイドから走りこんできた大島康明がヘディングシュート。 | 逆サイドへのクロスからの失点。 |
| 76:55 | PA脇深い位置からアンドレジーニョがPA内へドリブル、アンドレジーニョが倉貫に折り返して倉貫がシュート。 | アンドレジーニョのテクニック。 | |
| 岐阜戦 | 失点なし | ||
| 山形戦 | 32:44 | センターサークル付近から前線へ楔のパスを許し、その落としを受けたサイドのプレーヤーがクロス、豊田がヘディングシュート。 | クロスからの失点。 |
| 44:30 | 山形陣内、左サイドから逆サイドに大きく展開、サイドを持ち上がった石川が中央、宮沢へパス、宮沢のシュートを相澤がはじいたが、逆サイドから詰めてきた豊田が押し込んだ。 | プレスを躱され、逆サイドへの持ち出しを許したことが原因。 | |
| 福岡戦 | 68:00 | 福岡陣内中央から右サイドに大きく展開、受けた選手が柳沢を躱して右サイドを持ち上がり、PA内へパス、受けた選手が大久保に落として大久保がシュート。 | ウィークサイドへの持ち出しを許したことが原因。柳沢が躱されて更に難しくなった。 |
| 83:50 | セレッソ陣内左サイド深い位置のスローインからクロス、福岡の選手がヘディングシュート、こぼれたところを田中佑昌が押し込んだ。 | クロスからの失点。こぼれた位置も悪かった。 | |
| 92:00 | センターライン付近、左サイドのスローインからクロスを上げられ、大久保のヘディングで失点。 | クロスからの失点。 | |
| 広島戦 | 39:20 | 服部のクロスを青山がエンドラインを割るぎりぎりで拾い、詰めてきたジェルマーノの股間を抜いて中央高萩にパス、高萩がシュート。 | ミス。ジウトンとジェルマーノの青山に対するマークの受け渡しの意思疎通ができていなかった。 |
| 42:05 | セレッソ陣内左サイドでのジウトンから江添へのバックパスを柏木にさらわれ、柏木から高萩にパス、高萩がシュート。 | ジウトンのミス。ああいったシーンではGKまで戻すのがセオリー。 | |
| 44:20 | 青山のロングシュートを相澤がはじき、こぼれた所に詰めてきた服部と相澤が交錯して再度こぼれ、佐藤寿人が押し込んだ。 | 相澤のキャッチミス。 | |
| 横浜FC戦 | 37:49 | 右サイドから三浦が持ち上がり、中に切り返してPA手前15mほどのところからロングシュート。 | シュートが見事。防ぐのは難しかった。 |
| 76:58 | 左サイドから三浦のFK。GKの前をボールが通過し、抜けてきたところをエリゼウが押し込んだ。 | セットプレーからの失点。触れなかったのは山本のミスだが、三浦のFKが良かったとも言える。 | |
失点パターンとして似通っているものを、色分けして表記した。色が付いていないものは、相手の個人能力による失点である。
J1昇格を目指すチームであるにもかかわらず、ミスからの失点が多いのが切ないが、それ以外に注目すべき点として、クロスからの失点(青色のパターン)が4つ含まれている点が挙げられる。
左の画像は、徳島戦、山形戦、福岡戦で、クロスから失点した際の、クロスが上がった瞬間のシーンである。1〜4枚目、いずれのシーンでも、セレッソはペナルティスポット付近、最も失点の危険が高いエリアで、相手選手に対して数的均衡、ないしは数的不利に陥っている。また、それぞれのクロスは全てセレッソから見て左サイドから上がっているが、こうしたシーンでは右SBが絞って中央の守備にあたるのが、4バックで守るチームのセオリーである。セレッソの右SBのレギュラーである柳沢は、上下動の運動量とクロスの精度に秀でた選手だが、身長が低く、空中戦の競り合いには向いていない。好調時であれば、競り勝てないまでも身体を寄せて相手のプレーを阻害することが出来ていたのだが、ここ最近は、消耗してくる試合終盤になると、身体を寄せきれなくなるシーンが散見されていた。今回の3バックへの移行には、こうしたクロスに対して3人のCBを置くことで、ゴール前での数的、身体的優位性を確保する狙いがあると想像される。また、そもそも論として、セレッソの選手選考は攻撃を主眼において行われており、自分たちが主導権を握れない試合を、守備の頑張りで乗り切るようには構成されていない。従って、3バック化してMFの人数を増やし、中盤でイニシアティブを握ることで守備の時間帯そのものを減らす、といった狙いもあるだろう。この点については、試合の流れを追いながら、詳しく触れていくことにしたい。
両チームのフォーメーション
この試合、3バックで臨んだセレッソのスターティングメンバーは、左の通り。GK山本浩正、3人のCBは左から藤本康太、羽田憲司、前田和哉、ボランチにジェルマーノ、濱田武、左WB(ウィングバック)ジウトン、右WB酒本憲幸、2シャドーに香川真司と乾貴士、1トップがカイオ。
一方のサガン鳥栖は、オーソドックスな4-4-2。GK室拓哉、DFラインが左から谷田悠介、柴小屋雄一、内間安路、長谷川豊喜、MFが左から野崎陽介、船谷圭祐、島嵜佑、高橋義希、2トップが廣瀬浩二と藤田祥史。
セレッソのメンバーのうち、濱田と酒本は久々のスタメンである。濱田のボランチ起用に関しては、中盤でのイニシアティブを獲りたいというレヴィー監督の意図の表れだろう。濱田は当たりの強さや得点能力ではアレーやジェルマーノに及ばないものの、パスが正確で玉離れも良く、攻撃の際の状況判断に優れた選手。パス回しの中心となってリズムを作っていく役割には適任である。
一方の酒本。天皇杯では右WBに平島を起用していたが、昇格するために勝利が絶対条件となるリーグ戦では、本来SBである平島ではなく、よりオフェンシブな酒本を起用するのが理に適っている。平島についてはベンチ入りはしており、守備的に戦う局面では、酒本かジウトンに代えて起用する腹積もりだったと考えられる。
前半序盤、3バックの脇のスペースを狙った鳥栖の攻撃
さて、キックオフからしばらくの間は、鳥栖が支配する時間帯が続いた。天皇杯を3バックで戦ったセレッソが、この試合でも同じ布陣で臨んでくることは当然、鳥栖のほうでも想定しており、3バック攻略のオーソドックスな手法として、CBの脇のスペースを狙う攻撃を展開してきた。象徴的だったシーンを取り上げてみよう。
左の写真は前半7分の鳥栖の攻撃シーンである。1.FWの藤田がセレッソの右CB、前田を引き連れて中盤まで下がり、背後からのボールをポストで落とす。
2.落としを受けた選手が前田の空けたスペースに縦パス。
3.反転した藤田が3バックの脇のスペースでパスを受ける。
要するに、藤田が引いて前田を釣り、前田の空けたスペースにパスを送る、と言うのが鳥栖の攻撃の一つのパターンだった。鳥栖は前半21分にもこれとほぼ同じような攻撃を見せており、恐らく試合前から意図していた形だろう。
ただしセレッソのほうも、こうした鳥栖の攻撃には対応できており、7分のシーンでは相手のパス出しが遅れた間に前田がしっかりと戻れていたし、21分のシーンでは前田が空けたスペースを羽田がカバーできていた。また、CBの3人が右サイドにスライドすることで空いた左サイドのスペースは、ジウトンが戻って埋めていた。
無論、前半早々、こうした定型化されたパターン攻撃で3バックが破綻しているようでは話にならないわけだが、少なくともセレッソの3バックが付け焼刃ではないことが、これらのシーンから見て取れた。
ロングボール主体の攻撃、3バックの人選の意味
一方、セレッソのほうの攻撃は、前半序盤はロングボールが主体だった。ただし、ロングボールといっても前線に闇雲に放り込むのではなく、敵陣のサイド深い位置に蹴って乾や酒本、もしくはサイドに流れたカイオと言ったスピードのあるプレーヤーにキープさせるパターンが多かった。これらのプレーヤーが敵陣中央で相手のCBやボランチと競り合っても勝ち目はないが、サイドでボールを受けるならば話は別である。特にカイオは左右に精力的に動き、DFラインからのボールを引き出していた。こうした戦い方が可能になったのは、3バックのプレーヤーのスタイルによるところが大きい。これまでのセレッソは、センターバックに江添、前田を置くことが多かったが、今回は前田、羽田、藤本の3人である。羽田と藤本は中盤もこなせるプレーヤーであり、足元の技術は江添や前田と較べて正確である。また、ロングボールの精度も高い。DFラインから相手陣内の深い位置、しかもサイドにボールを蹴って味方にキープさせる為には、ボールの強弱や角度に正確性が要求されるが、藤本と羽田はこの点において、非常に優れていた。
更に、懸案だったサイドからのクロスボールに対しても、3バックにした効果は表れていた。
左の写真は前半43分、セレッソから見て左サイドからクロスが上がったシーンである。ゴール前で相手2トップに対し、3バックが数的優位を確保できていることが分かる。また、4バックの時であれば柳沢が入っている位置に、ここではセレッソの中で最もヘディングの強い前田が入っている。相手のクロスへの対策は、この試合においてはひとまず成功していたと言っていいだろう。主導権の奪回、香川の先制点
セレッソは徐々に主導権を奪い返し、前半中ごろにはロングボールも減り、中盤でパスを繋ぐ「いつもの」セレッソに戻っていた。ボールを支配したことでDFラインも押しあがり、3バックの一角が順番に出て行って中盤のポゼッションを助けるシーンも見受けられた。そして前半44分。セレッソは香川のゴールで、待望の先制点を奪取。
この得点については、多くを述べる必要もないだろう。左サイドを持ち上がった乾からパスを受け、ペナルティエリア中央、相手が最も守備を固めるエリアを破ってのゴール。「エースの貫禄」を香川が見せ付け、セレッソは1-0で前半を折り返した。
後半のセレッソ、WBの存在感
後半のセレッソについては、中盤の枚数を増やしたことによるボールポゼッションの維持、特にWBの特徴的な動きを取り上げることにしたい。先制点を奪われたことで、当然鳥栖は攻撃の志向を強め、後半からはOH山城純也を投入して攻勢に出てきた。
これまでのセレッソは、相手が攻勢に出てきた時間帯で、それを押し返すことが出来ずに失点を喫することが多かったわけだが、この試合においては、前線、中盤からのプレスに人数をかける鳥栖の攻勢に対して、WBがボールと逆サイドに余ることで、相手のプレスをいなすことが出来ていた。具体例を見ていこう。
左の写真は後半17分のシーンである。セレッソから見て左サイドでボールを持ったジェルマーノが、CB前田にパス。ボールを受けた前田は一気に逆サイドの酒本へ。1枚目の写真ではジェルマーノの付近に5人もの鳥栖の選手が居るのに対して、3枚目の写真での酒本は、非常に広いスペースでボールを受けることができている。
4バックであれば、こうしたシーンではボールホルダーがルックアップした瞬間に、絞っていた右SBがワイドに開いてボールを受けるわけだが、こうした「絞る」、「開く」の攻守の切り替えは体力的に負担がかかる上、絞っていた時にマークしていた相手が、今度は逆についてきて、プレーを阻害されることも多い。
その点、3バックにおけるWBは中央に3人のCBが居る分、マーキングの負担が少なく、したがって、ワイドな位置に出て行く際の負担がSBに較べて少ない。よって、ボールを奪って逆サイドに展開する上で、相手のプレスを迂回してフリーになりやすい。つまり、たとえ押し込まれても、開いたWBに展開して高い位置に持ち出すことで、再度押し返すことが可能になるのである。
写真のシーンを鳥栖の観点から見た場合、1枚目の状態では押し込んでいたにもかかわらず、サイドを変えられた途端、一気に自陣まで押し戻されたと言うことになる。
勝因は3バックか、タレントか
セレッソは結局、後半15分、18分に乾のゴールで続けざまに得点を奪い、実質的に試合を決定付けた。後半35分には1点を返されたものの、39分には香川がダメ押しのゴール。セレッソは最終的に4-1で試合を終え、3バックへの移行は成功裏に終わった。とは言え、この試合では香川と乾がJ2では殆ど反則と言っていいレベルの攻撃力を見せており、特に1点目と2点目は、殆ど2人の個人能力だけで相手の守備を崩してしまった。したがって、本当に3バックにしたから快勝したのか、単に香川と乾のタレントが素晴らしかったから勝てたのか、この判断は微妙なところである。勿論、現在のセレッソが置かれている状況を考えれば、勝ってくれれば理由は何だっていいのだが、いずれにせよ、次の仙台戦で3バックの真価が問われるのは疑いのないところである。仙台の菅井、関口と言った選手たちはクロスの精度も高く、彼らが3バックのサイドのスペースに侵入した場合、セレッソとしては致命傷になりかねない。跳ね返せるかどうか。
仙台戦に向けての懸念材料
仙台戦に向けて気になったのは、左WB、ジウトンのプレー内容である。一言で言うと日本の芝にまだフィットしておらず、ボールが足についていない。現状では、ボールを大きく持ち出す時にミスをすることが多い。
また、レフティであるにも関わらず、左サイドから中央に入っていきたがる習性も不可解である。単純に縦に抜けて、中央に左足で折り返していればチャンスになっていたであろうシーンが、この試合でも何度かあった。
更に、不用意な横パスが多い。恐らくこの試合では、サイドでドリブルして相手DFを広げ、その上で香川、乾に預けて割っていこうと言う意図だったのだろうが、肝心の中に入れるパスが無用心で、カットされてカウンターを食らわなかったのが不思議なくらいである。中盤で横パスをさらわれ、出し手と受け手の両方が置いていかれたら目も当てられない。次からはWBからトップ下と言う攻め筋も読まれやすくなるはずで、ここを狙われる可能性が高い。
左利き、高身長、やわらかいボールタッチ、これらを兼ね備えたジウトンが得がたい好素材であることに疑いはないが、現在のセレッソには彼の成長を待つ余裕がない。仙台戦までにジウトンのプレーが改善されないようであれば、彼は外すべきだろう。
また、小松をベンチにすら入れなかった点も疑問である。必ず勝たなければならない試合で、チームで最も得点を取っている人間をメンバーから外す理由は、怪我以外では説明が付かない。この日は香川、乾が得点を奪ったが、彼らは基本的にチャンスメーカーである。ついこの間まで、小松しか得点を挙げていない時期があったことを、忘れてはいけない。百歩譲ってスタメンはカイオでいいとしても、小松はベンチには入れておいて欲しい。
総評
昇格争い云々を別にすれば、この日の試合は試合内容そのもの以外にも、酒の肴となり得るいろいろな要素を含んだ面白い試合だった。西澤、大久保が居た、3バックだった頃のセレッソを思い出したり、そう言えばあのシーズン、磐田にWBの裏を衝かれてやられたっけ、とか、鳥栖のボランチの船谷はその時、点取ってたヤツか、とか、そう言えば磐田は16位だから入れ替え戦で当たるかも、とか。
勿論、そうした思いを巡らせることが出来たのは、セレッソが勝利し、昇格の可能性を残したからである。
試合後、レヴィー・クルピ監督コメント:願わくばあと5試合。
「6位という順位を考えると、勝たないといけない試合だった。今季の勝利の中で、特別な勝利。目指すサッカーができて、昇格争いに残ることができた。ミスもあったが、システム変更が機能した。攻撃の時間が長く、守備の時間が短かった。今晩は、昇格争いに残ったことを考えながらゆっくり眠れる」
ゆっくり眠れる日が続きますように。
雨上がりのジュビロ戦(2006.11.17)